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「うまれる」公演プログラムの本間さんの文章
明日の公演のプログラムに載っている本間さんの文章です。

・・・ ・・・


「障害のある身体が踊り出すとき」

 本間直樹(大阪大学コミュニケーションデザイン・センター/文学研究科准教授)


 いつものように車椅子に乗った彼女は、周囲で騒めきはじめた青銅の打音につつかれて、涎を垂らしながら やおら両手を天に向けて突き上げた。手に握られているのはタオルとオモチャの携帯電話。ときに耳を貫く鋭 利な響きに耐えられないのか、再び手を下げ、しかめっ面をする。行き先不明に思われた彼女の視線は、ふと、 彼女の目の前に立つ彼に注がれる。ある日の、音楽とダンスによるフォーマンス・セッションのことである。 彼は彼女の視線に応えているのか、それを逸らしているのか、彼女が手を突き上げたのをきっかけに、やは り持ち上げられた両手を左右にゆったりと揺らし始める。それを見た彼女は同じように両手で動き出し、タオルを握った手をぶんぶん振り回して、「こう?こう?」と嬉しげに彼に訴える。なんという揺るぎない表情、たくましい笑み。次第に密度を増す音が部屋全体に充満し、彼女はさらに高揚して「ウルサイッ」と叫んで手を振り上げる。彼もまた「ウルサイッ」と応えながら、両手を上げて身体を反らしたり、屈んで全身を縮めたりすると、それに共鳴するように、彼女も上半身を左右に大きく振って応える。まるで見得を切り合う歌舞伎役者のように。今度は思わず車椅子から振り上げられた右足を、すかさず彼の左足は捉えて、二本の足が空中で出会ったまま、その邂逅を祝うように二人は両手を高くのばしてバンザイをする。絶妙の均衡を保ちながら、片足を上げた一対の身体がつくり出す交尾のポーズ。
 やがて、リズミカルな運動を描き出した音楽に誘われて、彼女は、いつのまにか立ち上がり、先ほどまで車椅子にいたのが嘘であるかのように、跳ねるように全身を解き放って踊っている。いつも彼女を縛りつけている重力が、そのときばかりは彼女に力を与え、水中の魚のように、空間の密度が彼女の身体を支えてる。こうして、重度の知的障害をもつといわれる彼女の身体は、見たこともない表現世界に私たちを誘い込んでいく。ダンサーである彼は、彼女を模倣しない。模倣は動きを凝固させてしまう。模倣よりもしなやかで、刺激よりはゆるやかな、身体の呼応。眼もよだれもすべてで表現する彼女に、彼は全身全霊をかけて応じなければいけない。彼はもはや身体運動のスペシャリストではなく、表出された魂の振幅をときに広げ、ときに狭める風のようだ。風が木を揺らすのではなく、木の全身の動きが風に道を空けるように。芸術は操るのではなく、あることをあるがままに存在させるのである。



*出典:『Communication-Design 4-異なる分野・文化・フィールド――人と人のつながりをデザインする』(大阪大学コミュニケーションデザイン・センター)
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