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Gamelan Marga Sari -Blog-

*ガムラン マルガサリ*のメンバーによるブログです.
無意識の出会い
7月10日
8時30分、ISI大学院オーディトリウム集合。リハをすませて、忘れ物を取りに我が家へ戻る。ついでに、プラウィロタマン通りにあるカフェへ。なんとカフェラッテとクロワッサンの朝食。おしゃれなカフェは、無線LANがあるのであちらこちらでラップトップの花。隣のテーブルでは、元日本海軍のおじさんが英字新聞片手にコーヒーを飲んでいる。公美子さんが、ラックからコンパス(インドネシア最大のキリスト教系新聞)を取って来た。

「あれ!佐久間さん載ってるよ。」
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確かに、僕が載っている。前日にやったSLB(特別支援学校)の写真だ。しかし、人相が悪いなあ。次のページを開くと、ジャカルタで日本人が御神輿を担いでる写真。両方が同じ新聞に載っているところがいいんだろうなあ。

オーディトリウムに戻る。小学生たちのコンサートが始まっている。段ボールを床に落として音を作ったり、いろいろ工夫している。でも、ちょっと元気が無いかなあ。今年は、10校が参加している。

僕たちの順番が回って来た。10の小学校は、子どもたちだけでコンサート。僕らは、ジャワの小学生+日本人アーティスト+ジャワ人アーティストチームとしてのゲスト参加。

・ジャティラン・ダンス
・将棋作曲作品
・おとなのフリーインプロ

舞台袖で馬にまたがって待機していると、男の子たちが声をかけてくる。目は真剣だ。やってやろうという気持ちが伝わって来る。紹介とともに、僕は舞台に寝転んだ。やがて、馬にまたがった子どもたちがやってくる。馬と馬がじゃれあうシーンから。いいタイミングで、ビニールのござにまたがったエリナちゃんが客席から滑り込んで入って来た。リハも無しの完全ぶっつけなにの、さすがさすが!延々と繰り返されるリズムに気持ちが高ぶってくる。時折挟まれるブレーク、そしてまたトランスを呼ぶリズム。ジャワにも、スンダにも、バリにも、インドネシアのあちらこちらに見られる芸能のかたち。それを、あそびながらやる。舞台で思いっきりやる。

誠さんの静かなフレーズから始まる。舞台袖から、おんなのこがひとり、自分のペースで歩いて来て、そっとガンバンのところに座り、迷い無く自分で作ったメロディを弾きはじめる。かすかな音が会場を静かにさせていく。ひとりまたひとり、大きい人と小さい人が変わるが変わる登場する。しだいに流れができはじめる。ガムランだけなのに、ジャワでは聞いたことの無いようなガムランのグルーブが生まれはじめる。ふと、オーディトリウムの外を眺めると、キャンパスの掲示板の前に、作曲家のアスモロさんがジーサムスーをくゆらせながら、掲示板のガラスを眺めている。なにを聞き、なにを思うのか?15年前に彼に始めあった時、彼は孤高の現代音楽の作曲家だった。決して演奏されない難解な楽譜を、それ自体がカリグラフィの作品かのように見せてくれた。

舞台最前列に並んだ4人が、ボディパーカッションをはじめた。ボディって、からだでしょ、からだで音楽だったら、僕だって負けてないぞって思って、足を踏み鳴らしながら、出て行った。相変わらずジョハンさんの声が聞こえてくる。「音楽はダンスで、ダンスは音楽だ。」って。客席のこどもが笑っている。誠さんの声が聞こえてくる。「そこにいあわせることを感じる音楽。」生きてるダンス! 音が少なくなってきた。横田さんの声が聞こえてくる。「耳を澄ますことも大事だけど、無意識に聞こえるってことも大切。」考えない、感じるダンス!

アザーンが聞こえてきた。それからもうすこし、演奏は続いた。そして終わった。1時間を越えるパフォーマンスだった。
20110711_Harian+Jogja_convert_20110722141658.jpg



終わってすこしハイになっていた。口ひげをたくわえて、含み笑いをしながら目をギラギラさせたランテップが近づいてきた。留学時代からずっと腐れ縁の舞踊家。3年近く共同生活をして、毎晩舞踊のことを語らった。ソンボン(いちびりでええかっこしい)がゆえに、孤独な仮面舞踊の名手。

「Shin, total! kamu. (新、おまえ、トータルや!」

「Ya, total gila, toh.... (ああ、トータル クレージーってことやろ。」

「Nggak, kamu sekarang total. (いや、お前は、今は、トータルだ。」

ジーファンとモーハンのいうふたりのこどもが、母親のジニーのお尻に隠れながらチラチラ見ている。韓国系アメリカ人とジャワ人の間に生まれたふたり。 ランテップのパートナーのジニーは、僕の一年後に留学に来て、それからじっとジャワにいるのだ!!

ジョグジャ名物ナシ・グドゥッ(ナンカの実の甘い煮込みとご飯)の弁当を食べながら、ジョハンさんのオフィスでおしゃべり。東京のワヤングループのメンバーでソロでオリジナルワヤンの公演をしてきた中村伸さんと深樹さん夫婦と友人夫婦、コミュニティアートをやり続けているオン・ハリ・ワフユさん、中学の音楽教師のパルジヤントさん、作曲家のアスモロさんなどなど。去年も食べたなあ、やっぱりグドゥッはおいしいなあ、と思いながら。

マリオボロ通りへ買い物に。今日で、学期の変わり目の休暇は終わりなので、国内観光客はすこしは減ったみたい。商店街の南端にあるミロタ・バティックへ。ジャワの雑貨、バティック、工芸品などのお店。すごい人である。店の規模も、客数も何年か前と比べると、倍以上に。みんな買い物を楽しんでいる。買い物するために、ものを買っているようだ。僕が留学していた頃のジャワ人は、スーパーで買い物をすること、スーパーに入ることにさえ、恥じらいや罪悪感を感じているようだったのに。

一食のご飯の何倍もする缶ジュースなんてほとんど無かったし、何度も使えるビン入りのお茶は特別のときだった。普段は屋台でビニール袋にお茶を注いでもらって、飲んでいた。屋台で買うご飯の包みにこどもの答案用紙が使われていたり、家庭の食器洗いには買い物の黒いビニール袋がスポンジ代わりに使われていた。昔からお金持ちはいたけど、みんな自分の身の丈を知って、欲望が膨らんでしまわないように、気をつけていた。その姿は、慎ましく美しかったけれど、スポイルされているように思えることもあった。しかし、タガは、はずれつつあるようだ。買い物できることがうれしい、消費が楽しい、そのためには稼がなくっちゃ、って。大きな店で買い物をすると、制服を着た女性が胸の前で手を合わせて、「Terima kasih! (ありがとう!)」って、微笑んで言った。ちょっとクラクラした。他の国に来たみたい。商品ケースの向こうで、やるきなそうに座ってて、めんどくさそうに伝票を切ってた女の子たちは・・・。スマイル イズ マネーであることが、実感として感じられのだろうか。ちょっとやる気を見せて働くこと、意外に楽しいことが分かったのか。努力がお金に変わるシステムができたのか。悪いことではないのかもしれないけど、スマイルの向こう側になにがあるのか。

19時30分、誠さんと公美子さんとピアニストの吉森信さんを迎えに空港へ。吉森さんはゲゲゲの鬼太郎の通行人のような顔して、なぜかバティックシャツを着て、登場。そして、恒例のござのアヤム・ゴレン(鳥の唐揚げ)屋さんへ。ワルン(屋台)のおじさんによると、すぐ近くの故スカスマンさん(最近亡くなったジャワでは珍しい創作ワヤンのがんこおじいさん)の家でワヤンが行われていて、日本人のヒカリとマミが出てるよ、とのことだった。そう説明しながら、ワヤンのお裾分けのお菓子をござのお客に配って回っていた。

7月11日
7時30分出発で、マングナン小学校へ。雨森さんが腹痛ということで、横田さんと林朋子さんと。8時すぎに到着すると、小学校の始業式と今年から開く幼稚園の開校式が行われていた。職員室には、大きなナシ・トゥンプン(共食儀礼用の山型に盛ったご飯)が供えられていた。ダルーさんの案内で、1年生から6年生までの教室を見て回った。土の地面が広がる住宅街の家屋を村人から借りて教室にしている。学校と住宅に境界が無い。横田さんがダルーさんにいろいろとインタビュー。

この学校を開いたのは、ロモ・マングン(マングン翁)という建築家で、図書室とビデオ室だけが彼の設計になっている。簡素な素材だけど、こどもが隠れ家にしたいような、早く言えばジブリのアニメに出てきそうなそんな感じ。マングンさんの設計した教会がジョグジャ市内にもあるというので、そちらに回ることに。その前に、ナシ・トゥンプンをおよばれする。とにかく、あっちこっちでご飯が出される。ありがたいなあ。豊かだなあ。

トゥグ塔の北側にある教会へ。事務の女性が案内してくれる。こちらは機能的で、すっきりとしたデザインの建築。1970年代くらいのものかな?数百人は礼拝ができる大きな教会なんだけど、もっと大きな礼拝所が必要だとかで、建て替えの計画があると言う。もったいないなあ。

いよいよ帰国。僕の滞在中、イウィンさんのお母さん、弟のアンバル夫婦と赤ちゃん、姪っ子が家に滞在してくれた。普段は、別の家で暮らしていたりするのに。お父さんも毎日のように、自転車に乗って様子を見にきてくれた。誠さん、公美子さん、横田さん、エリナちゃん、吉森さん、僕と合わせたら11人である。でも、そんなにいっぱいいるようにも感じない。家が日本より広いってこともあるけど、人の距離がいい感じなのかもしれない。近からず、遠からず。このいい感じの距離が取れるようになるまでは、少し時間がかかった。とにかく、これで今回の滞在は終了。アスモロさんとヒカリさんも遊びにきた。みんなバイバイ。

同じ日に東京へ帰る横田さんとは、バリまで一緒。最後の数時間をいろいろおしゃべり。多言語、多文化、無意識のこと、どれも僕にも関係がありそう。無意識のうちに、出会うべくして人や場所とは出会うんですよね、横田さん。あれ!バリの空港のロビーで、見たような顔が。ずいぶんと貫禄が出てきたバリ舞踊家の小谷野哲郎さん。彼とは、同期の奨学生だった。あの頃は、眼鏡をかけた好青年で・・・、まあ、おたがいさまですから・・・。おしまい。
(佐久間新)
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